書道を自宅で気軽に始めてみたいと思っても「独学でも上達できるのか?」「独学書道は何から始めればいいのか?」という疑問や不安が生じることがあるのではないでしょうか。
書道は本来好きな時間に気軽に楽しめるものであり、ポイントを押さえることで独学でも上達を目指せます。
本記事では独学で書道を始めたいと思った方がすぐに実行に移せるように、お手本選びや書道用品の揃え方、独学書道の具体的な練習方法などを紹介します。
1.書道は独学でも上達できるのか?
結論から言うと、書道は独学でもある程度の上達が可能です!
自宅で独学で書道をやってみたいという方には、例えば次のような、様々な背景があります。
- 書道教室に通ってみたいが、月謝が高い
- 書道教室に通ってみたいが、時間が合う教室探しが難しい
- 自宅や勤務先の近くに、ちょうど良い書道教室がない
- 日常のちょっとした筆文字を上手に書きたいが、書道教室に通うほどではない
- 書道教室に通い続ける自信がないので、気軽に自宅で独学でやってみたい
このような理由から、独学で書道を始めたいと思うのは自然な選択でしょう。
一方で、「そもそも何から始めれば良いのか?」「指導者なしで上手に書けるようになるのか?」といった疑問や不安も出てきますよね。
この記事ではそんな疑問・不安を解消できるように、私自身の経験を踏まえて、参考になりそうなことを説明していきます。
「独学でいいからやってみたい!」と思った気持ちを大切に、記事を参考に、気軽に自宅で書道を楽しむ方が増えますように。
2.独学で書道する場合は、好きなお手本探しから! 〜初心者&学び直しの方向け、おすすめ書籍紹介〜
ここでは独学書道におけるお手本の選び方と、参考になる書籍をいくつか紹介します。
先生や主宰団体からお手本を与えられる書道教室とは異なり、独学書道ではお手本を自分で決める必要があります。
まずは、自分がどのような筆文字を書けるようになりたいのかを具体的に決めるところから始めましょう。
書道と言えば、どんな文字を思い浮かべますか?
掛け軸の流麗な行書、小筆で書かれた柔らかな仮名文字、規則正しく書かれた写経、自由に書かれたデザイン書道・・・。
一言で書道といっても、筆を用いて書く文字には様々なジャンルがあります。
本屋さんや図書館に行くと、書道関連の様々な書籍・テキストが並んでいます。
お手本探しの際には、これらの書籍を1冊ずつ手に取って、パラパラとめくりながら、好きな字を探すのがお勧めです。
そして、書いてみたい字が見つかったら、できれば購入してお手本として活用しましょう。
参考までに、初心者や学び直しの方向けの書籍をいくつかまとめてみました。
基本的な美しい字を目指したい方や、少し変わった字を書きたい方、本格的な臨書にトライしたい方向けにピックアップしています。
⚫︎石飛 博光著『DVDで学ぶ 石飛博光 書道の基本 下敷き手本付き』
自宅で無理なく書の基本を身につけられるように、書道用具のお話、基本の点画の書き方、平仮名や漢字の基本的な書き方がわかりやすく解説されています。
臨書や創作についてもお手本だけでなく勉強になる解説が多数あり、独学書道に最適な一冊です!
⚫︎中塚翠涛監修『30日できれいな字が書ける筆ペン字練習帳
年賀状などの季節のお手紙や、ご祝儀袋に書く名前など、日常生活のちょっとした場面で書く文字の上達を目指したい方にお勧めの一冊です。
筆ペンを用いた内容ですが、小筆や大筆に持ち替えても応用が利く内容です。
書道初心者の方であれば、まずは筆ペンから親しんでみるのも良いですね!
⚫︎美登英利著『デザイン書道マニュアル』
街中の看板で見るような遊びごころが感じられる筆文字を書いてみたい方にお勧めの一冊です。
著者(作者)は書道経験がない方ですが、その分、本当に自由な発想で表情豊かな筆文字を多数紹介されており、眺めていて楽しくなる書籍です。
⚫︎高校教科書『新編 書道Ⅰ』
過去に習字教室に通っていた方などで、少し専門的な内容や、書道という芸術領域を体系的に学びたい方にお勧めの一冊です。
押さえておきたい古典の名作が幅広く取り上げられており、一つずつ臨書して違いを感じながら練習することが可能です。
歴史も踏まえて書道に取り組むことで、色んな発見があることも面白いと思います。
いかがでしたか?
ここで紹介した以外にも書道では様々な書籍・テキストが出版されています。
もちろん習熟度に合わせて選ぶことも大切ですが、自分が「書いてみたい!」と思う筆文字を見つけて、お手本として活用してくださいね。
3.書道の独学に必要な道具と選び方
ここでは、半紙サイズ(※)に取り組む場合の書道用具について最低限必要な物を説明します。
自宅で独学書道として楽しむのであれば、最初は100均や代用品で揃えても問題ないものもあるため、予算に合わせて揃えてください。
※24.2cm×33.3cm。小中学生の習字の時間で一般的に取り組むサイズ。
【筆】
半紙に4〜6文字を書くのに適した大筆と小筆を用意します。
毛の材質によって、柔らかい柔毛筆と硬い剛毛筆がありますが、両方の良さを兼ね備えた「兼毛筆」を最初に用意しましょう。
できれば、書道用品店で2000〜3000円程度のもので店員さんにアドバイスをもらいながら選んでください。
【紙】
手漉きと機械漉き、中国産と日本産、滲みやすさなど追求すると奥が深いのが紙です。
初心者や自宅で楽しむのであれば、機械漉きで100枚入り、500〜600円程度のもので十分です。
書道用品店では「初心者向け、練習用、滲みにくい」などの表示がされていることが多いので、紙も店員さんにアドバイスをもらいながら選ぶことをお勧めします。
【墨】
自宅で気軽に楽しむのであれば墨汁で十分ですが、なるべく上質なものを選びましょう。
「書芸呉竹 紫紺系黒」などは初心者が書きやすい上に、本格的な墨の発色が美しくお勧めです。250mlで1000円程度で手に入ります。
興味があれば固形墨を購入して、墨を磨ることにトライしても良いでしょう。
⚫︎呉竹 書道液 書芸呉竹 紫紺 250ml BB1-25
【硯】
墨汁を使用する場合は、セラミック製やプラスチック製の安価なもので構いません。
最近は100均でも驚くほど機能的な硯が手に入るようです。
私が自宅でよく使っているのは呉竹のセラミック製の硯です。表は固形墨用で表面に墨が磨りやすいよう、やすりのような加工が施してあり、裏は墨汁をそのまま使えるようになっています。
ただし、固形墨を磨って使う場合は、石で作られた硯の方が質が良い墨を磨ることができます。
⚫︎呉竹 硯 セラミック ヘッダー付 両面硯 4.5平 HC2-45H
⚫︎呉竹(Kuretake) 硯 雲月硯 水仙 黒 10面 HB4-1
【下敷き】
毛氈(もうせん)とも呼びます。
フェルト製で厚さ2mm程度のものが使いやすいと思います。
半紙用サイズで黒や濃紺が一般的に使用されますが、赤などもあるので好みで選んでも良いです。
また、4文字や6文字を書くときの罫線が入ったものもあるので、習熟度によっては購入を検討しても良いですが、できれば罫線なしの下敷きを1枚購入した上で使い分けるようにしましょう。
⚫︎呉竹 書道 下敷き 書道用品 美濃判 No3-2 濃紺 KA33-202
【文鎮】
紙が動かないように固定するものです。
一般的なシルバーのものだと500円程度で購入が可能です。
2本組のものだと書きたいお手本によって紙を2箇所押さえられるので便利です。
重しとして紙を固定できそうなものがあれば、最初は代用しても構いません。
⚫︎あかしや 書道用品 ツイン文鎮 12角 AQ-14
⚫︎あかしや 書道用品 つまみ付き文鎮 12角 AQ-13
【筆置き】
練習中に一時的に筆を置く場所です。
山形や動物モチーフなど様々なデザインのものが販売されていて選ぶのが楽しいと思います。
1000円程度から購入可能なので、好みと予算に応じて探しても良いでしょう。
自宅にあるものであれば、箸置きなどで代用可能です。
【水滴】
固形墨を使う場合は、硯に水を差す必要があるので用意しましょう。
水滴も様々なデザインのものが1000円程度から販売されています。
自宅にある食器などでも代用可能ですが、その場合は少しずつ水を差せるように注ぎ口が付いたものを選びましょう。
揃える道具のイメージは付きましたでしょうか。
独学書道なので、継続するためにも自分が良いなと思うものを気楽な気持ちで揃えていただければと思います。
もし、身近な場所に書道用品店があれば、一度は直接お店に行って、店員さんにアドバイスのもとで実物を見ながら選ぶことをお勧めします。
生活圏内にお店がないならば、今は専門店のオンラインストアやamazonなどで揃えることも十分に可能なのでご安心ください。
4.早速書いてみよう!
独学書道用の道具が用意できたならば、早速書いてみましょう。
4-1. 書道の基本の線や点画を練習する
いきなり文字を書く前に、まずは基本の線や点画を書いてみます。
縦線や横線、クルクルと回る線などを何本も書くことで、筆の扱い方に慣れることが目的です。
筆を紙面にどのように置いて書き始めるか、線をまっすぐ書くための力の抜き方や腕の運び方、線の最後はどのように筆を置いて形を整えるか、などを意識しながら書いてみましょう。
最初は思うように書けなくても、練習を重ねることで、ある日突然、スーッと気持ち良いと思える線や点画がきっと書けるようになります。
ちなみに、この練習は熟練者でも折りに触れて行うことが多いです。ウォーミングアップとしてその日のコンディションを確認して本番に臨んだり、本番で上手く書けない点画や線のみにを集中して何度も書くことは書道の練習ではよくあります。
4-2. 書道のお手本を真似て文字を書く
基本の線や点画の練習が終わったら、いよいよ文字を書きます。
購入したテキストからお手本にしたいページを選びますが、初心者や久しく書道をやっていないという方は、最初は楷書2文字くらいから始めると良いでしょう。慣れるまでは、お手本部分をA4サイズに拡大コピーすることもお勧めです。
以下に私が自宅で好きなお手本を見て独学で書道する際のやり方を記載します。
私の場合は1回の練習で、ウォーミングアップ以外で7枚書くことが多いです。
時間が許す限りダラダラと何枚でも書けてしまうので・・・、適度な集中力を保って練習の効果・効率も重視すると、この方法に落ち着きました。
1枚目:
お手本通りに自分なりに書く。
書いたらお手本と見比べて、上手く書けた所や上手く書けなかった所を見つけます。
上手く書けなかった所は何が違うのか?次はどう書けばいいのか?を考えます(お手本テキストに解説が載っていれば、そちらも参考に)。
2枚目:
1枚目で考えたポイントを意識して、もう一度お手本通りに書く。
書いたら再びお手本と見比べて、上手く書けた所と書けなかった所について考えた上で、集中して練習する文字を決めます。
3〜5枚目:
集中して練習したい文字に絞って書く。
「朝日」という2文字がお手本ならば「朝朝」と書いたり、「春夏秋冬」という4文字がお手本ならば「秋秋秋秋」と練習したい文字だけを繰り返し書きます。
途中で文字を構成する点画や線のみに1枚使っても良いです(余白に書くこともあります)。
書いて→見比べて→改善する、ということを何度も行います。
6〜7枚目:
本番として、一発勝負でお手本通りに書く。
ここまで練習したことを活かして、程良い緊張感も持ちつつ、リラックスして臨みます。
2枚を書き上げたあとは、お手本と見比べてより良く書けた方を今日の1枚として選びます。
以上が私なりの独学書道の練習方法です。
2〜4文字だったら、前後の準備・片付けも含めて1時間程度あればできることもあり、普段は社会人として働きながら無理なく続けられる方法として落ち着きました。
絶対というわけではありませんし、人によってやりやすい方法は他にもあると思いますので、参考にしながら少しずつ自分なりの練習方法を見出してください。
5.書道の独学に大切な臨書について
最後に、書道で重視される「臨書」について、これから独学で書道を学ぶ方に知っていて欲しいことをお伝えします。
書道をやりたくなって身近な経験者にアドバイスを求めたり、教室を探そうとした時に「臨書」という言葉を聞いたことはありませんか?
臨書とは、書道の世界では一般的に古典の名作をお手本にして、真似て書くことで表現方法を学ぶことを指します。
臨書によって表現力を磨くことは、書道の基礎力を身に付けていくことでもあるため、本格的に書道をやっている方には臨書および臨書力を重視する方が多いです。
その分、「臨書をやらなければ書道とは言えない」「臨書の基礎がないのにデザイン書道ができるわけない」「教室に通って臨書の方法を学ぶべき」といったアドバイスを受けることもあると思います。
この点については、一理あるのですが、私は臨書という言葉にとらわれ過ぎずに、書道はもっと自由に楽しんでも良いのではないか?!と考えています。
書道や筆文字の文化を後世に残すためにも、現代の無名の作家であっても自分が理想とする文字を真似て書いたり、お手本にとらわれずに自由な発想で筆文字を書くという楽しみ方があっても良いのではないかと思うのです。
様々なアドバイスを受け止めつつも、「書道を始めてみたい」と思った心を大切に、まずは独学でできる所から、自分なりに書道を楽しんでいただければと思います。
一方で、古典の臨書に取り組むことが、基礎力・表現力を磨く行為になることも事実です。
独学で自宅で書道をやりながら、本格的な書道の世界にもう少し踏み込みたくなったら、その時は古典の臨書にチャレンジしても良いでしょう。
古典の臨書も基本的には、お手本を真似て書いて→見比べて→改善する、ということを何度も行います(これを「形臨」と言います)。
王羲之の蘭亭序や欧陽詢の九成宮醴泉銘などは、もし本格的に書道を学んでいきたいとなれば、必ず通る道になることでしょう。
6.まとめ
本記事では独学で書道を始める際の、お手本探しの方法、必要な書道用具と予算感、具体的な練習方法を中心に解説しました。
独学で書道を上達させるポイントは、自分が書きたい(目指したい)文字を具体的にして、お手本として真似て書く、観察して改善することを繰り返すことです。
最初は上手く書く方法がわからないことも多々あると思いますが、少しずつ慣れていってコツを掴めてくると、確実に上達したと思える瞬間が訪れるはずです。
あなただけの独学書道の楽しみ方ができることを願っています。
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